「さむ……くはない、なぁ……」
どうせなら。
どうせなら風邪でもひいて、心配させてやりたいくらいなのに。
勇気を振り絞り、恐怖を乗り切って登った屋根の上は首元まできっちり包み込むコートのおかげで全然寒くなかった。
BE MYSELF
ピンクのシャンパン。
トプリと揺れるワイン。
なみなみと泡立つビールに澄み切った透明の日本酒。
ありとあらゆる酒が並ぶ中、俺はこっそり水差しからグラスへと水を注いで会場を抜け出した。
片手に摘むグラスの細さはまるで俺の心の弱さを示している……なんて卑屈を装ってみたりして。
頑張って力を込めれば折れてしまうんじゃないだろうかと思えるガラスの冷たさに、俺は少し安堵する。
俺にも、壊せるものくらいあるのだと。
取り払えない壁とか、埋められない溝があろうとも……何かを変えることくらい。
俺にだってできるのだ。
なんだってできるのだ。
この屋敷の屋根に登ることも容易いくらい、俺はなんだってできるんだよ。
出来ないことなんて、ないんだー!!!
という勢いのもと、俺はここまで登ってしまっていた。
バルコニーの出っ張りにグラスを置いて、手を掛けて、反動をつけて足をひっかけて。
がくっと縁から足を踏み外した時には落ちる!と思ったけどなんとか登りきることに成功した。
ほら。
俺にだって、できる。
あんなに体力がなかったはずの俺でも、やればできるんだ。
………こんなことくらいは。
年越しというものは、世界共通でおめでたいことらしい。
新しい年への旅立ち。
新年が始まろうとしている瞬間を、例年ならばささやかな家族の団欒で過ごしていたはずの俺は、現状につい溜息ばかりが出てしまう。
イタリアの地に一時的な移住を決めて、数ヶ月。
年の瀬を異国の地で迎えるのは初めてなのだが、それにしても…。
マフィアというものは伝統と格式に彩られた俺とは程遠い世界。
にも関わらず、俺もマフィアの枠組みに組み込まれてしまっている。
そもそもの間違いはそこなのか、と心を重くしながら、そっと眼下の様子に耳を傾けてみた。
賑わう人々の声が折り重なる波のように、大小を繰り返して鼓膜に届く。
旧年から、新年へ。
年をまたぐことを目的に開かれたパーティーはさざめくような賑わいをみせていた。
ボンゴレ主催、ということも作用してありとあらゆるファミリーの代表が集う会場は、高貴な雰囲気を醸しながらも浮き足立つように明るさを漂わせている。
正装に身を包んだ紳士の隣には、きらびやかに着飾り、自慢の宝石をぶらさげた美しい女性が微笑んで。
繋ぎとめるように、媚を売るように、しなだれかかるように腕へと身を絡めていて。
「――あー…ダメだ」
こういう考え方はよくない。
女性に対しては徹底して紳士的に。
彼女らは小鳥。
優しく扱って、丁寧に接して当然の相手。
世界を上手く渡っていくために、リボーンが口をすっぱくして俺に教えたあれこれのひとつ。
当然なのだ。
当たり前なのだ。
だから……俺のこの感情は、余計。
男性が女性を伴ってパーティーに出席するのは、いわばステータスのひとつだ。
相手の女性の格が高ければ高いほど、男性の価値も上がる。
エスコートする男性の価値が高ければ高いほど、女性の質も評価される。
互いが互いのために、異性と連れ立って、パートナーとして門扉をくぐるのは必然のようなもの。
ドレスのひとつ。
身に着ける宝石のひとつ。
自然に優雅なふるまい。
向けられる微笑。
互いが互いのため。
……そう。相互の利益があってこそ、成り立つ関係なら――。
「それなら……納得、しなきゃいけないんだろうけど……」
けれど……そうでない場合も、あるわけで。
もし、そのそうでない場合であったなら?
俺は、枕を濡らすしかないわけだ。
誰もが女性を伴う中、俺だけが腕をがらあきにしてぼんやり主賓の隣に立っていた。
お前の真価が疑われる、とリボーンは眉を潜め、獄寺くんは複雑に目元を絞っていたけれど、伴いたい女性が傍にいない現状で『誰でもいい誰か』を見繕うのは失礼な感じがして気が乗らなかったのだ。
その場限りの関係であれ、敬意を払わなければならないのに…俺にはそれができないだろうから。
集中力を他に注いでしまうだろうと。
予想など簡単だ。
だって。
だって、例外は、ないから。
誰もが。
招待された誰もが、例外なく誰かを伴う、ということは。
彼も――。
「あー!!!やだ!嫌だ嫌だ!!」
ちかちかと瞬く星だけが俺を見下ろす屋根の上で、俺はガバっと頭を抱えた。
馬鹿げたこと。
醜いったらありゃしない。
叶うはずもない恋情が叫ぶままに嫉妬するだなんて!
艶かしい肢体を浮き上がらせる、身にぴったりとフィットした黒のドレスは、きっと彼のスーツに合わせて仕立てられたに違いない。
真っ赤なルージュも嫌味ではなく艶めいて、周囲の男性の息を奪った。
首元を縁取るように連なるピンクゴールドとルビーは彼が贈ったものなのだろうか。
ヤスリで磨かれた爪を彩るマニキュアは?
耳たぶに揺れるイヤリングは?
エナメルのヒールは?
全てが全て、彼のため?
それとも彼が彼女のために?
嫌な想像ばかりが働く俺の脳みそはこんなに優秀だったのだろうか。
どうせなら、どんな想像も思い浮かばない愚鈍ならよかったのに。
銀色の髪をサラリと空中に投げ出す彼の仕草のひとつひとつが、全て彼女に捧げられているものなのだとしたら?
絶望感に苛まれ、ここから身を投げても後悔はしないだろう。
ああ、嫌だ。
愚かしい感情の渦が俺を苛む。
新年の祝いの席。
本来ならばヴァリアーの長である『九代目の子息』だけが出席すべき席に、彼のストッパーとして招集されたのはもうすぐ剣帝の名を確固たるものにするのだろうと謳われる鮫――
スペルビ・スクアーロ、その人だった。
『ねえ獄寺くん』
『はい!なんでしょう十代目!』
『……あの人』
『はい?』
『あの女の人…なんだろう』
『……ど、どこかに不審人物でも!?』
『腕に谷間を当てているのはわざとだよね……見せつけてる?あてつけ?あてつけなのかな』
『……は?』
『谷間に当てるっていうか…挟み込もうとしてるよね。いやらしい…わざとなのが見え見えじゃないか。品がない』
『あの…十代目?』
『獄寺くん!』
『は、はい!』
『ちょっとあそこに特攻してきて!』
『は……はい!?』
お酒は入っていた。
形式上飲まなければならない状況だったから…というのは理由の半分。
飲まなきゃやってられないというのが残りの半分。
『ごー!!』
『え、いや、あの』
『期待してるよ獄寺くん!』
『へ?あ、は、はい!!』
『ごおおお!!!』
『い――行ってまいります十代目ぇえ!!!』
ビシ!と俺が指差したのはスクアーロの腕にそっと寄り添う女性だった。
行って引き裂いてきて!
心の中で叫びながら、俺はぐっと唇を引き結び――拒絶するように背を向けた。
彼女を庇うであろうスクアーロの姿なんざ見たかないもん。
そうして。
壁に引っ掛けていたコートを引ったくって。
手近にあったワインを一息にあおり、空いたグラスに水を注いだ俺はこっそり会場から抜け出したのだ。
「ロミオとジュリエット……とは言わないけどさ」
だって、ロミオもジュリエットも、互いに惹かれあっていたじゃないか。
風がびゅうびゅう吹きすさぶ屋根の上で、そっと膝を抱えてみる。
ああ、なんだかとっても惨め。
考えるだけで落ち込みそうだ。
俺たちの間に蔓延る確執が社会的に許されないもの、という段階で俺の方が格段に難易度高いのに。
彼の感情が俺に対して底辺に程近いという状態が絶望感を煽る。
『許されない』とか『むずかしい』のレベルじゃない。
『ありえない』んだ。
「なんで……こんなことになっちゃったんだろ」
彼に――スペルビ・スクアーロに惹かれた。
理由?
知らない。
きっかけ?
わからない。
ふと気付けば目で追っていて。
時折はっと彼のことを考えていたって自覚する。
夢をみては目が覚めたときにむなしさを感じて。
言葉を交わす度に目尻が熱くなる。
唇の端がわななき、肺が呼吸の仕方を忘れて。
一瞬一瞬を、映画のフィルムのように刻みつけては切なくなる。
悲しいのではない。
悔しいのでもない。
だから、後悔はしていない。
けれど……とても、とても苦しい。
この感情が俺にとって有益でないことは知っている。
俺の心を満たす何かを生み出すことはないのだと、ちゃんと自覚しているのだ。
なのに、消えない。
消えてくれない。
はちきれそうになる澱んだ濁りを俺の中でこり固めてドロドロにしていく。
それだけなのに。
「バカみたい……じゃなくて、バカそのものだよなー…」
呟きは、誰にも拾われずに宙へ放り出されて消えていく。
心を殺せば、楽になれるのだろうか。
楽にはなれるのかもしれないけれど……きっと自由ではなくなるのだろう。
どうすればいい。
いずれくる破綻は、今この瞬間に訪れたっておかしくないほど、俺は不安定なのに。
携えてきた水を一口吸い取って喉に流せば、いつの間に乾ききっていたのか、ひりりとした痛みを感じながらも喉に空気の筋が通った。
鼻から息を吸い込めば、ツンとした冷たさが思考をも冷やしていく。
……お似合いだった。
女性を伴うスクアーロは、いつになく紳士然としていて眩暈を感じた。
俺などが、隣に立つなど一分の可能性もないのだと、神様が俺に突きつけたかと思うほどに。
伸ばした背筋も、緩やかに流れる髪も、どこの誰だか存じない彼女に差し出される掌も。
全部全部、俺に絶望感しかくれなくて。
堪らなかった。
見てられなかった。
バカじゃないの俺。
こんなにも打ちのめされて初めて、微かな期待を抱いていたのだと自覚した。
ありえないと理解していたはずなのに。
そうじゃなかった。
もしかしたら。万が一。奇跡的に。
そんな単語たちを信じて、抱えて、夢見ていただなんて。
瞼が縮むような感覚が広がる。
瞼の下の方から押し出すような熱さが滲む。
やばい。
みっともない。
零してたまるかと力を入れた瞼から。
ぼろりと。
努力もむなしく水滴が落ちてしまったではないか。
「なにしてんだぁ……」
おいこらクソガキ。
そんな粗忽な物言いと共に、俺はヒョイっと後ろ襟を摘まれて立ち上がらせられた。
………。
勘弁してください。
「な、んで……いるの!?」
「お前が抜け駆けしやがったからだろぉ!」
俺だって出たくて出たんじゃねえんだから、一人で逃げてんじゃねえ!だなんて。
何言ってんのこの人。
「――に、逃げてないよ!」
「逃げてんだろうが。って……う゛お゛ぉい!泣くほど嫌だったのかぁ!?」
……ほらみろ。ろくなことがない。
俺の運のなさはピカイチだ。
抜け出したことが見つかって。
お説教食らわされて。
それがよりによって今一番会いたくない人物で。
「パーティーに出るのもお前の仕事のうちだろぉ!めんどくせえからって泣くなぁ!」
止まらない涙まで、見られてしまった。
何が泣くな、だ。
全部あんたのせいだ。
原因がどの口叩くんだ。
コートも羽織らずに、夜闇より濃い黒だけど、見慣れない正装を纏うスクアーロが眼前に立っている。
「そんなんじゃないっ」
「じゃあなんだ。誰かに嫌味でも言われたか」
「そんなのもう慣れたもん」
「もんって……やっぱりまだガキだな」
見てくれだけ多少でかくなっても、中身はそう簡単に変わりやしない、だなんて失礼な。
ふ、と鼻から息をついて、スクアーロは膝を折った。
何をするのだろうと視線を投じるしかない俺を、下から見上げるような体勢で捉えて。
頬に、指を差し出してくる。
「……痛い」
「だったらさっさと泣き止めぇ」
ぐりぐりと遠慮なしの力加減で俺の涙を拭うスクアーロの親指。
……嫌いだ。
こうやって、無遠慮に、短慮なまま俺の心に踏み込んで。
土足で入り込んで、掻き回すだけ掻き回して……俺に淡い期待を植え付けるのだから。
嫌いだ。
心底嫌いになれない理由を置いていくから、こういう軽率な行動が一番嫌いだ。
「優しくしないでよ」
だから、思わず口にしてしまった。
耐え切れなくて、これ以上は堪えられなくて。
絶えず脳裏をよぎっていた『終わらせるための言葉』がようやく吐き出される。
「無遠慮に優しくしないで。変な期待させないで。無神経だよ、スクアーロ」
勝手なこと言ってるってわかってる。
言って傷つくのは俺本人だっていうことも、わかってる。
でも、だからこそ。
それで完全に傷ついて、立ち直れなくて、心が完全に折れるなら、それでいいとさえ思えるほどに俺は崖っぷちに立っていた。
触れられる度に心臓がはちきれそうだなんて、この人は微塵も感じていないのだから。
「何言ってんだぁ。意味わかんねえぞお前」
「…スクアーロのそういうところが嫌なんだってば!」
敏いようで、人の感情の深みまでは測れない。
けれど……見つめる視線の重さとか、歯痒い言葉の端々を汲み取ってくれたっていいじゃないか。
「いきなり怒って…なんなんだぁ」
「怒ってない!」
「じゃあ癇癪か」
「子供扱いするな!」
ああ、呆れられてる。
だって怒鳴りもしない。
普段のスクアーロなら理不尽な物言いにはさっさと怒りを顕わにして相手の非を責めるではないか。
それすらしてもらえないだなんて。
俺は、そんなに認められていないのか。
ぎゅっと強く瞑った瞼の隙間から、ボロっと一際大きな滴が溢れた。
流れてしまえばいいのに。
涙と共に、俺の余計な感情も。
「お前……そんなに俺のこと好きなのかぁ?」
「……は?」
今、なんと?
「みっともない泣き方しやがって。そういう涙は自分の部屋とかベッドとかで人知れず零してこそ情緒があるんだろぉ」
「――は?へ?な……何、言ってんの?」
「だから、お前が俺のことを好きで好きで仕方がないってことを言ってんだろうが」
違うのか、と目を細めたスクアーロは微かに眉間へ皺を寄せている。
…ちょっと待て。
これは、どういうこと?
「気付いてた…?」
「何が」
「俺の、気持ち…」
「お前、俺をなんだと思ってんだぁ」
あんなにあからさまな熱っぽい視線浴びせかけられて、こそばゆくならない人間がいるか、と胸さえ張ってみせて。
え。
いや。
ちょっと。
ちょっと待ってよ。
「えっ…!」
知られてた!?
気付かれてた!?
信じられない!
否、信じたくない!
だって。
だって!
恥ずかしすぎるじゃないか!!
「なっ…ばっ…やっ……」
「言語を話せ言語を。お前は人間だろぉ」
「な、なっ、なんで……知らないふりして……」
「そりゃあ、お前の気持ちに応えられやしないからな」
しかも、すっぱり斬りやがった。
「まず、お前はガキだ。ガキは俺の守備範囲外だ」
「そ、そう、ですか」
……なんか、想像以上にショックを受けていない自分がいる。
現在進行形で振られているはずなのに。現実を突きつけられているはずなのに。
仁王立ちなスクアーロの姿があまりにも堂々としていることと、情報がいきなり大量に与えられていることで俺の思考はやけに冷静でいられるのだろうか。
……それもどうなの。
「仮にお前が人間的成長を経て、俺の前に立ったとしても、俺に男色の気はない」
「まあ、そう、だろうね」
「男を抱くより女を抱いた方がいいに決まってんだろぉ」
「それは…知らないけど」
人それぞれだし。
ポカーンと口を開けたままスクアーロの言葉にひとつひとつ返事をする俺は日本人らしく律儀だなと思ってしまう。
ショック、といえばショックだけど、やけにあっさり受け入れられた。
なんだろう……もっと地獄に落ちるくらいの悲しみを覚悟していたはずなのに。
「だから、俺はお前の気持ちに応えることはできない」
………ああ、そっか。
なんとなくわかった。
応えられないと、答えてくれたからだ。
俺の気持ちに応えられない、と。
それはつまり、俺の気持ちを否定するということではないから。
俺がスクアーロのことを好きだという気持ちは、感情の存在は、否定されなかったから。
『ありえない』ではなく、『望む答えをやれない』だから。
「わかったかぁ?」
「……うん」
頬に手を添えられたまま、スクアーロのまっすぐな瞳が俺を射抜く。
ぞくりと背筋が粟立つもの、以前よりは苦しくない。
応じるように、ひとつ瞬きを。
拍子に涙が零れることは…もうなかった。
「つまり、お前が俺を望むなら、振り向かせるための努力が必要なわけだ」
「……へ?」
もう何度目かわからない、素っ頓狂な声が漏れてしまった。
「え?ちょっと、スクアーロ?」
「なんだぁ」
「どういうこと?」
「……お前、バカかぁ?」
人の話は一度で理解しろ、って…溜息吐きたいのは俺の方だってば!
振り向かせるための、努力?
努力、しろってこと?
スクアーロが俺を好きなってくれるように?
……それって、さ。
「俺、まだ、スクアーロのこと好きでいて、いいの?」
「それはお前の勝手だろぉ」
ペチっと。
軽く頬を叩いてスクアーロの手が離れていく。
外気に晒されて冷たくなった指先が俺の視線をひっぱっていく。
「物陰から覗くだけで満足だってんならそれまでだ」
何の努力もしないまま、とっとと家に帰って食って寝て、ママンの腕の中で忘れてしまえと薄く笑むスクアーロは斜に構えていて。
「執念深く追うか、姑息に狙うか……それが出来るようになれば」
「なれば?」
「お前もガキから格上げだ」
大人の駆け引きを――。
もどかしい、むずがゆくなるような淡い恋の期待なんざ、さっさと丸めて捨てちまえと。
ニヤリと口端を引き上げたスクアーロは、踊るように腰を上げた。
月光に照らされた銀髪が星屑よりも鮮明に俺の視界を煌かせる。
「やれるものなら、やってみろ」
俺の手から、かろうじて握られていたグラスを掠め取ったスクアーロは、チラリと視線を投げたまま、屋根から飛び降りていってしまった。
「持ってかれた…」
空になった両掌を見つめて、俺はそっと息をついた。
やってみろ、だって?
…もう、何考えてるのかわかんないよ。
応えられないと言っておいて、努力しろという。
手に入れたければ力を尽くせと。
「……俺も大概バカだけど…スクアーロもずば抜けてバカだよね」
淡い期待なんて抱くなと言いながら、ささやかな希望を置いていったのは誰だ。
「はぁ…」
穏やかな波が、俺の心を撫でていく。
そっと頬に指を這わせれば、まだスクアーロの感触を思い返すことが出来た。
「持ってかれた」
何もかも。
希望も絶望も、何もかも。
奪われるばかり。
手放すばかりだ。
……ああ、ならば。
「絶対後悔させてやる」
初めて、悔しいと感じたから。
この悔しさを、倍にして味わわせてやらなくては。
腹は括られた。
心は決まった。
肩透かしを食らった分、絶対、後悔するくらい俺を植え付けてやる。
自分がどれだけバカなことを言ったのか。
どれだけ俺の気持ちを弄んだのか、思い知らせてやるんだから。
「………よし」
夢がただの夢じゃなく、本当に叶う時。
俺らしく、あれるよう。
「まずは、もう一度獄寺くんを特攻させよう!」
ぐっと拳を握りながら、俺は勢いよくコートを脱ぎ捨てたのだった。
BE MYSELF
アンケート同率2位の「スクアーロ×ツナ(単発)」でした。
…異様に長くなってしまってすみません…。
しかもあまりラブくありませんね。
スクツナ?
……あけましておめでとうございます!2009年もよろしくお願いいたします!!